犬と暮らす南欧スタイルの家
太平洋を一望する高台の住宅地の一角で、築15 年とは思えないほどの美しさを誇る住宅が、静かにその存在を主張している。
この家が建てられた 1990 年代末は、輸入住宅の多くを北米スタイルが占め、南欧をモチーフにした住宅を目にすることはほとんどなかった。そんな時代に、オーナーたっての希望で、リゾート感溢れる南欧住宅を作り上げたのが、『つるおか工務店』だ。 建築にあたってオーナーの M さんが掲げたテーマは、「犬と暮らす家」。バリアフリーのタイル張りフロアには床暖房が採用され、真冬でも愛犬が快適に過ごせる。そして、手入れの行き届いた庭と室内を繋ぐ大きなフレンチドアをダイニングに配し、間仕切り壁は極力減らして、愛犬が自由に家の中を回遊できるレイアウトを施した。さらには、置物や絵画、ドアノブに至るまで、あらゆる部分に犬をモチーフにしたデザインをあしらうなど、この家では犬が家族と同じ身近な存在であることを気づかせてくれる。 外観は、独特な風合いのスペイン瓦と粗めに仕上げた白の塗り壁を組み合わせ、陽光に映える明るい印象を演出。丸みを帯びた外階段と格子状のデザインが施されたバルコニーが、まるでリゾートホテルのようだ。
1 階を開放的なオープンスペース、2 階をプライベートスペースとした内装にもこだわりは満載。タイルや照明、ドア、化粧柱など、使用された建材の多くは、オーナーのMさん自らが輸入したもの。ワックス仕上げのテラコッタタイルが敷き詰められた床や階段、手焼きのスペインタイルを駆使したMさんこだわりのオーダーメードキッチンなど、一つひとつの要素がオーナーのセンスとも相まってバランスよくまとまり、柔らかで温かみのある空間をつくり出している。
オーナーとビルダーが文字通り二人三脚でつくり上げたこの家は、南欧建築のパイオニアとして知られる『つるおか工務店』の原点ともいえる作品だ。建築から 15 年。南欧スタイル輸入住宅が定番となった今でも、オーナーの大切に住み続けたいという想いとともに、その輝きは決して色あせることはない。