• 威厳のあるジョージアン様式のN邸。建物の壁を覆う煉瓦は海外から輸入して日本でスライスしたもので、長手だけの段、小口だけの段を一段おきに積み上げる“イギリス貼り”で仕上げられている。グリークリバイバル様式を思わせる、純白のポーチコラムも美しい。

  • 内開きの玄関扉を抜けたエントランスホールは、ダイニングと階段に通じる開けた空間。「この家は土足。せっかくドレスとヒールで着飾ってきたレディをスリッパに履き替えさせるなんて、失礼極まりありませんからね」とNさんは笑う。

  • コンセプトを「蒸気機関車」とし、産業革命時代のおかしさ、可愛らしさを表現したというキッチン。エスプレッソマシーンが鎮座するアイランド、お酒やグラスが並ぶリカーシェルフは男の憧れ。壁の角にあたる、入隅、出隅部分にまでモールを回し、重厚感、存在感を引き出すこだわりも秀逸だ。

  • 男の色気を感じさせるサロンのようなリビング。特注のチェスターフィールドソファは英国製で、天井のシーリングファンはアメリカ・ハンター社製。壁は照明が当たってダークグレーに見えるように、照明にフィルターをあてて調色している。

  • 階段もブリティッシュ・トラディショナルを手本とし、ダークブラウンのウッドで構築。階段から続く2階の床は、真紅の絨毯を敷いてくつろぎ感を演出。

  • 造作家具により、外国の老舗のバーバーのような荘重な空間を構築。手前に見える2つのシンクは、右が洗顔用、左が整髪用として使い分けるためにある。

  • 大量の洋服が並ぶ2階の衣装部屋。ドアの脇に見えるエナメルプレートはフランスのメーカーに特注したもので、英国テーラー街の名前を記している。また、それを壁面にとめるネジもマイナスネジにするなど、どこまでも細部ににこだわった。

  • ベッドはやはり威厳のある雰囲気だが、寝室全体はあえてフェミニンで官能的な配色でまとめ上げた。淡いベージュ色のレースカーテンは、色や素材感など、自分が満足するまで徹底的に探し出したという。

  • 家の中でNさんがもっとも長い時間を過ごしているという書斎。他の部屋同様にこだわりの家具が見られるが、各種照明によりムーディーな空気を作っているのも見逃せない。

  • しっとりと仕上げられたレストルームは、天井までオーク材で設えることで豪華列車の一室を思わせる空間に。彫刻が美しい鏡の背後には、壁クロスがパーフェクトなバランスで貼られている。

隅々まで思考を凝らした、究極のジェントルマンズスタイル

去年よりも今年、今年よりも来年と、年輪を重ねて素敵さを増していく

 アメリカ文化に触発され、長い間ミッドセンチュリーが大好きだったという施主のNさんは、若い頃はスタイリストとして活躍し、現在はクリエーターを統括する仕事をしている人物。多くの経験を重ね、人生の軸がしっかりと固まってきた50歳のタイミングで、Nさんは「自分のこれまでの歩み、完成の集大成としての家を建てよう」と思い立ったという。
 そして完成した終の住まいは、ご覧いただけばわかる通り重厚で上質。モダンや未来的な要素は一切ない、トラディショナルなものとなった。
「いざ家のテーマを設けようとした時に、自分の好きなもの掘り下げてみようと、60年代、50もとより、30年代、20年代まで遡ってアメリカ文化や様式を調べ始めました。すると自然にイギリスをルーツとするジョージアンやビクトリアンスタイルに行き着き、その荘厳とした雰囲気にすっかり魅了されてしまったのです」
 かくして当初想定していたミッドセンチュリーから方向転換し、男のわがままを徹底的に貫いた、紳士の館とも呼べる自宅が造られることになったのだ。
「クラフトメイドハウスは私のビジョンをしっかり理解してくださって、空間全体の設えはもちろん、造作家具など一つひとつ丁寧に、こだわりを持って仕上げてくださいました」
 石畳のアプローチを抜け、煉瓦張りの屋敷に入場すれば、まるでラルフローレンのお店にやって来たかのような、もしくは映画の中に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥る。そのくらいN邸はどの角度から見ても空間が計算し尽くされ、全ての部屋に隙が無い。
 「それぞれに得意分野を持った職人さんは、時には私の要求に対し、いい意味で意地を張ってくれました。だからこそ結果として素敵な住まいが生まれたのだと思います。クラフトメイドハウスの名に違わぬ、魂のこもった家づくりをしていただけて感謝しています。」
 家全体が仕上がるまでかかった期間は3年。施主も作り手も一丸となって造ったゆえに、設えやデザイン、家具や調度品に意味があり、それぞれに物語が秘められている。

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