空間の移り変わりを表現するデザインの力
スパニッシュ風の瓦屋根、陽あたりのいいテラス、庭に植えられたヤシの木など、南欧のリゾートに建つ、瀟洒な低層リゾートホテルのようなたたずまいのT邸。リゾートで過ごす時間は、移動するたびに、映画のワンシーンのように見える光景が移り変わるもの。参會堂がT邸で実現したのも、その移り変わりである。
物語は、通りに面した門から始まる。アプローチまでを直線ではなく、90°の角度をつけることで、門からエントランスが見えないようになっている。一歩足を踏み入れたときから、時間の流れが切り替わる演出だ。エントランスホールは廊下の奥に窓があり、その先はパティオのような裏庭の緑。日常とは切り離した、特別な時間の始まりを表現している。
木製の梁、ヘリンボーンに組んだフローリングが印象的なリビングと、隣のダイニングをつなぐのは、アール開口の身近なトンネル。ダイニングは床がタイル張りとなっており、空間としてつながりながら、見える光景は明らかに異なる仕掛けだ。
時間の流れ、見える光景の移り変わりが、象徴的にあらわれるのが和室。当初のからのリクエストだったが、南欧リゾートから和モダンの空間へ至る廊下は、照明を落とし、玉砂利を敷いたトンネルを思わせる雰囲気で、その先に広がる光景に胸が高鳴る。
映画のワンシーンは、細部にこだわることでより印象的なものになる。T邸の場合、それはタイル、モザイクタイルの使い方だろう。エントランスホールの照明の内側や、トイレのアール開口風装飾の中にも、さり気なく張られたモザイクタイル。細かな意匠が物語の句読点となり、次のシーンへと切り替わる。心地よいリズム感が表現されているのだ。