非対称形で、流線形を重視して全体が構成され、外壁は基本的に凸凹は設けず平滑に仕上げ、窓面も壁表面と揃える形で造られている。建築の隅角部に積極的に2面採光窓を採り入れている。水平線を重視し、玄関にもキャノピーを設け、陸屋根のパラペットも水平線を強調する。
モダン様式は、1922年、アメリカを代表する新聞『シカゴ・トリビューン』が本社ビルの建築のために世界的なコンペを開催した時に誕生した。この時の第2位当選作が、フィンランドの建築家エリエル・サーリネン(息子のエーロも著名な建築家)によるアール・デコのデザインであった。このデザインは、最新の建築様式として流行することになった。それが1つの契機となって、1930年代に入ると、汽車・船舶・飛行機・自動車の登場に影響された「現代風」の建築デザインが流行する。それがモダン様式である。
このモダン様式は、建築物の表面から装飾を外し、建築物の隅を覆うようにして水平方向から強調された、全体として流線型のフォルムが特色といえる。しかし、そこには水平の流れの強調と同時に、幾何学模様を駆使したアール・デコのデザインが縦方向のアクセントとして用いられる建築物も並存した。そのため、モダン様式の中には、装飾を完全に外したものとともに、アール・デコのデザインのものも含まれる。フランク・ロイド・ライトの「帝国ホテル」や「旧山邑邸(現ヨドコウ迎賓館)」のプレーリー様式のデザインは、こういったアール・デコを用いたモダン様式に影響を与えたものと考えられる。
19世紀末から流行したアール・ヌーヴォーが自然界に存在する曲線をもとにすべてのデザインを作ったのに対し、アール・デコのデザインそのものは、産業革命の成果とも言うべき人間の量産技術に対応した、繰り返し可能な幾何学模様としてまとめられている。そこにモダン(現代)の装飾デザインの面目躍如たるものが示されている。
モダン様式の建築は、デザイン中心の古典派建築と決別し、機能・性能・生産性を重視して発展した。やがて振り子は行き過ぎ、従来の様式建築を意識的に無視するようになった。日本の建築デザインは戦後から現在まで、この機能主義に支配されてきたのである。