19世紀後半のアメリカで最も人気のあったデザインが、クイーンアン様式である。元々はビクトリアン王朝中期のイギリスで、ウィリアム・モリスが主導したアーツアンドクラフツ運動の中から生まれた様式で、イギリスでは比較的おとなしく伝統的な様式に忠実だったが、アメリカに渡ると、極めて装飾性の高いデザインとして花開いた。
アメリカでのクイーンアン様式は、基本的にイギリスのものをモデルとしながらも、その華麗な意匠や装飾を強調(デフォルム)することで、より分かりやすい形で伝統的な建築様式の面白さを享受できるものになった。つまり、アーツアンドクラフツ運動の原型を構成したハーフティンバー構造、垂直様式のゴシック建築、レンガなどの組積建築がもつ美しさや手の込んだ技能を思う存分に強調したデザインなのである。
クイーンアン様式の屋根伏図は教会建築の屋根のように十字を切り、鐘楼のような八角形の突出空間がある。住宅の周囲にはリビングポーチがめぐらされて、教会建築のバシリカを連想させる。神が天から教会と見間違って、ここに住む家族を守ってくれるよう願ったビクトリアン様式の基本形(非対称)を忠実に実践した例で、リビングポーチを介して自然と往来できる農夫の家(ファームハウス)にもデザインが採り入れられている。