シングル様式は、アメリカ北西部を中心に広く建設された建築様式で、建築物の外壁や屋根の全体をシングル材(こけら板)で覆った様式である。シングル材は、米杉を割って板材としたもので、表面は導管が分断されないため耐久性が強く、屋根材として広く使われてきた。この様式では、外壁までシングル材でまとめたところに特色がある。さらに、鐘楼を原型とした塔のあるベイウィンドウや、建築物の1階を囲む回廊(ポーチコ)なども特徴である。
シングル様式が形成されたのは、1876年のアメリカ独立100年祝典以降のこと。経済発展を背景に、ヨーロッパの伝統的建築様式が主要な建築物に採り入れられる中、アメリカ独自のデザイン開発に取り組もうとの気運が盛り上がっていた時期だった。建築様式としては、ヴィクトリアン様式の1つとして全米を風靡した、クィーン・アン様式の一種である。
シングル様式は単に表面的に新しいだけではなく、開放的で、流動的な平面計画から導かれた特性をもった、有機的な様式でもあった。屋内空間の彫刻的な造形表現は、自然乾燥されたシングル材のサイディング(外装材)によって、建物全体を一体的に結合させていた。シングル様式は、何気ないデザインのようで威厳があり、釣り合いがとれ規律よく、それでいて快適に造ることができ、建築家の個性ある様式を実現することになる。建築様式の名称には、時代や地域、形状にちなんで名づけられたものが多い。しかし建築史家ヴィンセント・スカーリー・Jr.によって命名されたシングル様式は、特徴とする材料にちなんでいる珍しい例といえる。シングル材ならではの重厚な佇まいが歴史を感じさせ、この時代の気風を象徴していたため、富裕層が好んで高級住宅へ採用した。
ちなみに、フランク・ロイド・ライトが1893年に自宅としてオークパークに建てた住宅はシングル様式である。